新型コロナウイルス感染予防として、マスクをする生活が日常化しています。
そんな中、マスクが原因の頭痛に悩まされている方が急増しています。
ここ一年、「夕方にかけて頭痛が強くなる」「耳の後ろから始まり、頭全体に痛みが広がる」「耳鳴りを伴った頭痛」に悩まされているとしたら、マスク頭痛の可能性があります。
マスク頭痛は頭痛薬ではしのげないことも多く、鍼灸院へのご相談も増えています。
今回は、マスク頭痛のうち、耳の後ろから痛みが広がるタイプの頭痛にとっておきのツボ「下鐘」について、医学修士であり、ツボロジストである谷地が紹介させていただきます。
耳の後ろから痛みが広がるタイプのマスク頭痛
マスク頭痛にはいくつかのタイプがあります。その中で最も多いのが、耳の後ろから痛みが広がっていくタイプの頭痛です。
耳の後ろには後耳介筋という小さな筋肉があります。これは、耳を後ろにヒクヒクと動かすときに使う筋肉です。
ネコや犬など耳を頻繁に動かす動物とは違い、人間ではそれほど活躍の機会が無い筋肉です。
しかし、数万年にわたる冷遇から後耳介筋は突然活躍を余儀なくされました。原因はマスクです。マスクを着けるとゴム紐が耳を前に引っ張ります。前に引かれた耳は、そのままだと前に耳が持って行かれてしまうので、後ろに引っ張る力が必要となり、後耳介筋が働かざるを得なくなります。
後耳介筋普段使われない筋肉です。にも関わらず、四六時中マスクのゴムを引っ張り返さなければならない状態は、インドア派で運動不足だった人が、急にマラソン大会に出場させられ続けるようなものです。
強くて長時間の負荷は、筋肉の硬直化と痛みへと繋がります。
後耳介筋は小さな筋肉ですが、硬直が強くて長時間に及ぶと、周りの筋肉も影響を受け、強ばりと痛みが広がっていきます。
こうして、マスクの長時間使用が、耳の後ろから広がるタイプのマスク頭痛を引き起こすのです。
症状が悪化すると、頭痛だけで無く、耳鳴りや難聴、めまいも誘発されます。
一般の頭痛薬は痛みの緩和を目的としたものなので、痛みは一時的に解消しても後耳介筋の問題は解決しません。すぐに再発したり、痛みがないからと言って放っておくと、問題が深刻化して治りづらくなることがあります。
そのため、悪化する前にできるだけ早く対応したいところです。
マスク頭痛にとっておきのつぼ「下鐘」
下鐘は足首にあります。足の外くるぶしから真上に伸びる腓骨という骨を手の指三本(人差し指、中指、薬)の横幅を合わせた分上に辿ります。そこから、前に辿っていくと腓骨が途切れます。その途切れる縁の所に下鐘があります。指で深く押すと、他の場所とは違うムズ痛いような、響くような感覚があります。
ここに鍼をすると、マスクが原因となっている、耳の後ろから広がる頭痛、耳鳴り、めまいの軽減が期待できます。
ツボは、鍼灸治療の鍼をするのが最も効果的です。しかし、市販の鍼シールでもある程度の効果が見込まれます。
マスク頭痛のツボとして下鐘をオススメする理由
足首のツボなのに、耳の後ろに効果があるのは不思議に思われるかも知れません。では、なぜ離れた所に効果が見られるのでしょうか。
人間は常時、無意識に体のバランスをとっています。
例えば、歩くとき、踏み出す方の足を上げますが、そのままだとバランスを失って倒れてしまいます。
倒れないように、体は無意識に骨盤を軸足の方へ移動させ、それに伴い、肩甲骨や首の角度を変化させて、軸足側に体重が乗るように調整するので、何事も無く一歩踏み出せるのです。
こういった複雑な作業を無意識でできるように体はできています。とても便利ですが、反面、デメリットもあります。
バランスをとるためには複数の筋肉の緊張を同時に調整しなければならないのですが、自動化しているため、必要の無いときでも、ある筋肉が緊張してしまうと、そのバランスに関わる筋肉が勝手に緊張してしまうのです。
この考えを基に、マスク頭痛について考えてみます。
マスクのゴムで耳が引っ張られている状態は、体の感覚として、頭が前に引っ張られていると認識されます。そのため、前に引かれすぎて倒れないように、後ろに踏ん張る必要があり、その際、下鐘のある足首のポイントに力が入ります。
マスクを外せば、緊張がとけるはずですが、緊張が長時間にわたると、エラーが起きて足首と耳の後の力が抜けなくなります。
このとき、鍼などで下鐘のある足首のポイントの緊張をゆるめてあげると、自然と耳の後ろの緊張が抜けていきます。
同じ緊張なら、耳の後ろに鍼をしたらどうかと思うかも知れませんが、ただでさえ緊張が強く痛みを感じているところに鍼やマッサージなどの刺激を加えると、悪化して頭痛やめまいが強くなる恐れがあります。
そのため、ひどくなってしまったマスク頭痛には、足首のツボ「下鐘」を使うのが最適なのです。
ツボロジーは医療としてツボの有効活用を目指しています
私たちは医師との共同研究で、人体にあるツボは、医療として評価に値する効果を発揮することを検証により明らかにしてきました。
このツボの効果を不思議な物のままにせず、医療として有効活用するため、流派や思想を一旦排除して、シンプルに、ツボに鍼をする事で人体に起こる現象を観察してきました。
延べ数千人に上る膨大なデータから導き出された知見がツボロジーです。
協力機関である北斗病院においても、現状の医療ではなかなか改善がみられなかった症状に対して優れた効果が確認されています。
また、協力していただいている多くの鍼灸師によって、有効性や、新たな発見が続々と報告され、データは日々積み重なると共に、更新されています。
医療として有用な発見は、広く利用されるべきであり、また検証されるべきであると私たちは考えています。そのため、得られたデータは独占することなく、広く共有することを目指しています。
鍼灸師の皆様、是非、ツボロジーを活用してください。より良い医療を提供するために、効果の報告、知見の共有など、お力をお貸しいただけたら幸いです。
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