脳研究から見えてくるツボロジー

ツボロジー

脳研究の最先端、MEGとは

私たちは北斗病院との共同研究で鍼治療の効果を検証してきました。その際、脳研究の分野で最先端の装置となるMEGでの検証も行ってきました。

MEG(Magneto-Encephalo-Graphy)は、脳の磁場を測定する装置です。

脳神経が働くと微弱な電流が流れます。電流が流れると、周りに磁場が発生します。

この磁場を精密に捉えることで、脳がどのように働いているかを調べる装置がMEGです。

MEGで脳を検査される愛知県の鍼灸師

MEGとfMRIの違い

脳の活動を測定する有名な機器としてfMRIがあります。fMRIは脳内の血流変化を捉えて、脳の働きを調べます。MEGとfMRIは似ていますが、神経活動をそのまま捉えられるMEGは、時間的変化を精密に記録でる特徴があります。それに対して、fMRIは場所の精度が高いという特徴があります。

 ツボを研究する脳科学鍼灸師

MEGによる鍼治療の検証

MEGによる鍼治療研究は次の手順で行いました。

  1. 症状がある被験者の脳をMEGで測定
  2. 症状に関連するツボを1つ選び、鍼をする(ツボは患部から離れた箇所)
  3. 再び脳をMEGで測定
  4. 被験者にアンケートで感じた効果を報告して貰う

比較するために、選択したツボから2cm離れた箇所に鍼をしたコントロール群を設けました。

結果として、まず、患部から離れたツボへの鍼で、コントロール群を優位に上回る効果がアンケートの集計で確認されました。

そして、メインのMEGの結果から、

『鍼で効果が出た際に、脳の右頭頂葉楔前部が有為に活性化していること』がわかりました。

脳研究で鍼治療の効果が証明された

頭頂葉楔前部の役割

脳の研究は加速度的に進歩していますが、未解明な領域がまだ多いのが現状です。楔前部が、どのような役割を担っているのかは、まだはっきりとわかっていません。

現時点で、頭頂葉楔前部は、体の情報を集めてきて整理し、脳の適切な箇所へ情報を分配する中継センターのような役割を担っているのではないか、と考えられています。

また、頭頂葉楔前部はDMN(デフォルトモードネットワーク)とも深い関係があると言われています。

DMNとは、安静時に活性化する脳の領域です。DMNは意図をもった行動をすると活動が低下し、安静時に特に活動が高まります。

長い間、脳は意図的な行動をする際に活性化すると考えられてきたので、反対の反応をするDMNはある種ショッキングな発見であり、脳科学で注目を集めています。

MEGの結果から見えてくるもの

  • 様々な情報を仕分けする情報センター
  • 意図していないときに働くDMN

という頭頂葉楔前部の特徴と、臨床での観察から、ツボに鍼を一本するだけで、鍼をした以外の場所に効果が出る理由が透けて見えてきます。

人間は意図をせずに姿勢のバランスを保つことが出来ます。

立っているとき、座っている時、寝転がっているとき、歩いているとき、運動しているとき、人間は意識しなくても自動的にバランスを保っています。

もちろん、意識して姿勢を変えることは出来ますが、ほとんどのシーンにおいて、自動的に適したバランスが保たれています。

例えば、デートの最中、キレイな一番星を見つけた彼氏が、「あそこ見て!」と星を指さしたときの事を考えてみます。

腕を上げて指を指す行動をロボットにプログラムしてやらせると、指を指そうとして腕を上げた瞬間、後ろに倒れます。同時に、指さしてる方向を見ようとして、上を向いた彼女役のロボットも後ろに倒れます。

では、なぜ、人間は倒れないかというと、倒れないように、足首、膝、腰、背中、肩、腕、首などの筋力を無意識にコントロールして、姿勢のバランスを保っているからです。

恋人同士が二人の世界に浸りながら星を眺められるのは、姿勢のバランスを自動的に保つ機能が脳にはあるからです。

星を指さすために、左の前脛骨筋をあと15%緊張させて、大腿四頭筋の緊張を6%ゆるめ、、、なんていちいち考えてたら、ロマンチックな雰囲気が台無しですよね。

頭頂葉楔前部は、この意識をしなくてもバランスをコントロールできるシステムに深い関わりがあると考えられます。

なぜ、不調が起きるのか。

鍼灸院で不調を訴えられる方のほとんどに、この無意識でバランスが調整できる機能の不具合が見られます。

例えば、左の首から肩にかけての痛みがなかなか改善しない、1つの例を見てみましょう。

膝が原因の肩こり01

写真は極端な例ですが、本人がまっすぐ立っているつもりでも、このように姿勢が歪んでしまっていることが多々あります。

まず、目につくのは、左右を比べると、左肩が右に比べて上に持ち上がってしまっていることです。

左右の長さを比べると、首から肩までの距離が左は縮んでしまっています。肩を持ち上げるために左の僧帽筋や肩甲挙筋などが緊張していることが伺えます。

この緊張がコリと感じられ、この状態が続くと痛みが出ます。

ではなぜ、左肩を上げているのでしょうか。

意識して上げているのであれば、下げれば良いだけです。しかし、無意識に上げてしまっているので、本人は気付くことが出来ず、いつまでも不要な緊張が続き、症状が生まれるのです。

無意識に肩が上がるのは、体がバランスをとるためです。

何のバランスをとっているかというと、今回のケースで注目したいのは左の膝です。よく見ると、左の膝が曲がってしまっています。

左の膝だけ曲がると、左に体重が寄りすぎて倒れてしまいます。倒れないように左肩を上げてバランスを保っているのです。

膝が原因の肩こり02

一般的な鍼の治療方針

鍼には次の効果があることがわかっています。

効果1)痛みを抑える鎮痛効果
効果2)筋肉の緊張を緩める効果

この事を踏まえて、先ほどのケースの治療を考えてみましょう。

1つの方法として、痛む箇所に鍼をするという方法があります。鍼灸学校で習う方法ですし、鍼灸師が一般的に最も使う方法です。

しかし、今回のケースには注意が必要です。

首と肩の間の痛む箇所に鍼をしたとします。

効果1により、痛みは抑えられます。同時に、効果2により筋肉の緊張が緩みます。

痛みがとれたから、一見良い治療のように思えますが、必要だった筋肉の緊張まで緩んでしまうという問題が残ります。

筋肉が緩むと言うことは、力が入らなくなるということです。

今回の【首と肩の間の痛み】は、左の膝が伸びきらないバランスを修正するために発生していました。

首と肩の間の痛む箇所に鍼をすると、力が入らなくなり、上がっていた肩が下がります。

痛みはとれるかも知れませんが、そのままでは姿勢のバランスを保てなくなります。

体が倒れてしまわないように、脳は他の所に力を入れて、バランスを保とうとします。

こうなると、鍼をしたときは鎮痛効果で痛みが消えたような気になりますが、【膝が伸びないのでバランスが偏る】という問題は解決していません。むしろ、よりバランスが悪くなります。

崩れてしまったバランスを調整するため、最初よりも強い筋肉の緊張が生まれ、すぐに痛みが戻ってきたり、他の箇所に痛みが出てきたり、場合によっては悪化する事も少なくありません。

ツボロジカルな治療方針

もう一つの方法として、原因である無意識に曲がってしまっている膝を施術対象とする方法があります。

本来、立っている姿勢では、膝が伸びきっている方が、筋力を使わず立てるので楽なはずなのです。

それにもかかわらず、膝を無意識に曲げてしまっているのは、脳が「左膝を曲げて立つ方が楽(都合が良い)」と勘違いしてしまっているからです。

膝を曲げたまま立った姿勢を保つには関連する筋肉の緊張が必要です。脳は、勘違いの楽な姿勢をとろうとして、間違って膝を曲げる筋肉を緊張させているのです。

膝が伸びるのを邪魔しているツボの1つに委中があります。

委中に鍼をすると、鍼の効果2が発動し、不必要な緊張がとれて、自然と膝を伸ばした姿勢がとりやすくなります。すると、脳は本来の楽なバランスを思い出し、首や肩の緊張を解きます。

結果として、首から肩の間の痛みが和らぎます。

ツボロジーの理論

文字で説明すると長く感じますが、この現象は鍼をしてすぐに起きます。1秒もかかりません。

鍼をした箇所と離れた箇所に効果が出ていますが、瞬間に変化するということは、血流やホルモンとは違った経路が働いていると考えられます。

こういった症例を、多くの鍼灸師、医師や研究者とともに1700例以上検証してきました。

検証結果から、私たちは次のような仮説を立てています。

  • 脳の中には、正しいバランスをとった体のイメージがある。
  • そこからズレたとき、対応する筋肉を無意識に緊張させて、バランスを調整する。
  • ケガや生活習慣などによって、正しいバランス(最も楽な姿勢)のイメージにエラーが起きて歪んだままになってしまうことがある。
  • この状態だと、バランスをとるために常に筋肉を緊張させていなければいけない箇所が出てくる。
  • これが痛みをはじめとする様々な症状を引き起こしている。
  • 歪みの原因となっている緊張(ツボ)に鍼をする事で、脳の頭頂葉楔前部が活性化し、本来のバランスを脳が思い出す。
  • その結果、関連する筋肉の不必要な緊張が解け、痛みや様々な症状が改善される。

この仮説がツボロジーの理論的な中心となっています。

患者さんのため、未来の鍼灸師のための検証を

鍼灸師の皆様、もし、首や肩の痛みがなかなかとれない症状があれば、膝が無意識に曲がっていないか確認してみて下さい。もし、そうであれば、膝が伸びやすいように施術をしてみて下さい。

膝が伸びにくい原因は、委中だけで無く、臀部や足首の問題が潜んでいる場合があります。そちらも是非、探ってみて下さい。

今後、このような、臨床研究で得られた治療方法について、より詳しくお伝えしていきます。

鍼灸師の皆様、是非、お試しください。

上手くいっても、いかなくても、またより良い工夫などあれば、お伝えいただけたら有り難いです。医学・科学というのは、研究で得られた知見がまず発表され、続いて、追試とそこからのフィードバックを繰り返して発展していきます。ツボロジーも、そのような体制を目指していきたいと思っています。

鍼治療を必要としている患者さんのため、未来の鍼灸師のため、皆様の協力が必要です。

どうぞ、お力をお貸し下さい。

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